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50年前の“トム”に会える、映画『HERE 時を越えて』。トム・ハンクスが好きすぎる話、最終回。イラストと文:藤原さくら (シンガーソングライター) #4May 28, 2025
今週でトムの連載も最後となる。
トム・ハンクスについてのコラムの依頼をマネージャーに伝えられたとき、興奮しすぎてスマホのメモにすぐトムのことを殴り書きしたことを思い出す。
文章を書きながら、「わたしってこんなにトムのことが好きだったんだ......」とドキドキの(?)数週間の執筆であった。
そして毎週、トムのイラストも描いているのだが、初めてトムを描く際、トムのヒゲの色をどうするかでしばし悩んでしまった。
あーでもない、こーでもないと様々な色を試しているうちに、ふと「トムのヒゲの色で悩めることってだいぶ幸せだよな......」と気づいたのだ。
トムのヒゲに悩んで、トムが仕事になる。それは奇跡的な時間だった。
どうもありがとうございました。
というわけで、最後に取り上げるのは“旬のトム”。その映画の名は、『HERE 時を越えて』だ。
わたしはこの映画を見るため、久々に夜の映画館に訪れたのだが、トム待ちしながらポップコーンを食べるあの時間は完全にご褒美だった。
わたしはトムを待つのも好きらしい(『トイ・ストーリー5』も待ってます)。

今回の最新作は、なんとあの『フォレスト・ガンプ』のチームが再集結。『フォレスト・ガンプ』回でも熱く語ったが、あの二人にまた会うことができる。
しかも、トムが18歳から老人までを演じているというのも見どころのひとつで、VFX(Visual Effects)があればこれから無限に昔のトムに会うことも可能なのだと興奮してしまった。
そして本作は定点カメラで同じ場所を映しながら、時系列がものすごい勢いで入れ替わるので、映画館などで集中して見るのがおすすめである(家で観るときは携帯を遥か彼方に置いておこう)。
その時系列というのも、恐竜時代から現代までと本当に幅広く「今はどこ!?」となるのだが、終始同じ画角で全く飽きさせないから驚きだ。
もしかしたら、“場所(HERE)”というのは、嬉しいも、悲しいも、喧嘩したも、何もないも、全部記憶しているのかもしれない。
それこそ心霊スポットなどと言うとわかりやすいのかもしれないけれど。
そういうことよりもっと漠然としていて、自分たちさえ覚えてないことや感情なんかも、どこかに残っているような気がする。
歴史あるホールや、よく行っていたライブ会場で歌を歌うとき、すごく大きな空気の流れを感じることがあるが、それはもしかしたら先人たちの残した“そこ”に漂う“何か”なのだろうか。
この映画館は。わたしが歩いているこの道路は。わたしの家は。
100年前、200年前、1億年前、どんな様子だったんだろう......と思いを馳せながらの帰り道。深い充足感を覚えた映画体験だった。
と、なると......。
わたしは今、大いなるトムの記憶に触れるための聖地巡礼をするしかなくなっている気がする。
まずはシャルル・ド・ゴール空港で、クラッカーにケチャップとマスタードを挟んで食べるところから始めようか。
モニュメント・バレーで仲間を引き連れて走るのも良いし、ニューヨークのエンパイア・ステート・ビルでトムを待ち続けるのも捨てがたい。
トムのおかげで夢は広がるばかりだ。
わたしは、引き続きトムを広める活動家、研究家の一人として、より一層精進していく所存である。
全4回の重いラブレターのような文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
トム・ハンクスは、最近、コーヒー豆を売り始めました。みんなでトムのコーヒーを飲んで、来日を待ちましょう。
トム、本当にありがとう。『グリーンマイル』くらい長く生きてね。
おわり。
edit : Sayuri Otobe
シンガーソングライター 藤原さくら
